土遊びが危ない? 犬に貧血と血便が生じる犬鉤虫に人も皮膚から感染する
犬鉤虫(Ancylostoma caninum)
「自分で育てた野菜を食べたい!」と、家庭菜園で野菜を育てるって楽しいですよね。
自分が食べたい野菜、いつも使っている野菜、作ってみたい野菜の栽培を土づくりからスタートし、試行錯誤で収穫まで手間暇かけた分、食べたときのおいしさは買った野菜とは一味も二味も違います。
家庭菜園に限らずですが、ガーデニングなどで土いじりをしていて皮膚が痒くなったり赤みが出てくることがあります。なぜでしょう? また、採れたて野菜の鮮度を活かして生や浅漬けで食べたあと、喉がムズ痒くなる、吐き気が起きる、咳が続くことがありますが、これまたなぜでしょう?
食中毒と思いがちですが違います。どちらも寄生虫が原因なのです。鉤虫(こうちゅう)という名前の線虫の寄生で皮膚や喉に異変が生じたのです。土の中にいた鉤虫の幼虫が皮膚から侵入した、野菜に付いていた幼虫を口にした、つまり経皮的、経口的に鉤虫に感染してしまったのですね。
犬も同じです。犬鉤虫は経口感染と経皮感染に加え、胎盤感染、経乳感染もあります。
犬への感染経路
下は鉤虫の虫卵の写真です。いくつか細胞が入っているのがわかりますよね。この虫卵は犬のうんちの中に混ざっていて、犬の排泄で外界に出たあと虫卵が孵化するに適した条件となった時に孵化します。高温多湿だと1日くらいで孵化するので早いですよね。
鉤虫は孵化したからといって直ぐには感染できません。感染性のある第3期幼虫になるまで土壌中で発育を続けます。日数として1週間前後くらいですね。犬糸条虫(フィラリア)も蚊の体内で感染性のある第3期幼虫(L3)になるまで成長を続けるのですよ。
感染性を持った幼虫にまで育ったからといって鉤虫はそんなに大きくはありません。
成虫で1〜2pですから、幼虫だともっともっと小さいのです。大きくて目立つようだと皮膚から侵入してくるときにわかりますから、それだと人も経皮感染を避けられますよね。
鉤虫の幼虫の侵入で皮膚炎が起きますが、人の場合だと皮膚鉤虫症や皮膚爬行症といわれる強い痒みを伴う点状もしくは虫の移動に沿った細長い皮疹や盛り上がりができますから、犬が経皮感染しやすいのは四肢、特に指の間(趾間部)です。
趾間部の皮膚に最初は湿性湿疹の状態なのですが、壊死や潰瘍もみられ、局所は湿潤し、二次感染から膿皮症へ発展することもあります。痒みが強く歩行異常(跛行)も認められるので、犬の四肢や指の間をたまにチェックしてあげてください。
鉤虫は小腸に寄生します。鉤虫に感染した時に見られる症状が貧血、血便、下痢、腹痛、脱水症状、皮膚炎なのですが、貧血と血便が主だったものといえるでしょう。鉤虫は名前に“鉤”と付いています。口に鋭いカギ(鉤)を持っていますから、そのカギで小腸にがっつり噛みついて吸血します。
吸血量は鞭虫よりも多く激しいので貧血が起こりやすくなるほか、腸管壁からの出血により血便が出るということですね。鉤虫は小腸に寄生すると書きましたが、鉤虫が小腸のどの部分に寄生するかによって血便の状態が変わってきます。
小腸の上部であればコールタールのように黒い便(タール便)が出ますし、小腸下部であれば赤い血液の付いた便が出ます。また、小腸出血が多いことで鉄欠乏性の貧血にもなってしまいます。人だと鉄欠乏性貧血になると爪がもろくなり変形してきます。
爪が平べったくなったり(扁平)、爪の中央部分が凹んで爪の先が反り返ったような匙状のスプーン爪になったりと。人の鉤虫症でも鉄欠乏性貧血が起きますから、爪の変形ももちろん見られます。
異食症も症状の一つとして見られるので、もし土・紙・粘土・毛・氷・木炭・チョークといった本来は食するものでない栄養価の無いものを無性に食べたくなります。
犬だと正直よくわかりません。興味本位から口にしていることもありますので、執拗なくらい食べているようでしたら鉤虫の影響が考えられます。
犬の鉤虫寄生で多いのは経口感染と経皮感染です。
鉤虫に感染した犬のフンや糞が混ざった土の上を歩いたり土を舐めたりすることで感染しますから、むやみやたらと土を舐めさせたりしない方が無難です。また、人だと鉤虫の幼虫が付いた野菜を生で食べたり浅漬けにして食べることで感染してしまいます。
2008年1月から2016年11月の期間中、埼玉県動物指導センターに収容されたイヌとネコから直腸便を採取し、腸管寄生虫類の検索を行った。
前回の調査では、埼玉県内のイヌ906 頭およびネコ1,079 頭の寄生虫陽性率がそれぞれ38.6%、43.1%であることを報告した。
今回の寄生虫陽性率はイヌでは23.0%に低下し、ネコでは51.2%と増加傾向が認められた。
捕獲したイヌおよびネコの寄生虫陽性率は、飼養放棄された個体よりも有意に高かった。
野良イヌや野良ネコは砂場など幼児の遊び場で排便し、病原体を散布する可能性がある。
小児を野外で遊ばせた後は、親子共に手洗いを励行するなど日頃の注意が必要である。
今回検出された寄生虫類の中で、イヌで最も多かったイヌ鞭虫と次に多かったイヌ鉤虫は、いずれも人獣共通種で、ヒトは経口または経皮的に感染する。
イヌ鞭虫はヒトの大腸や盲腸に寄生し下痢、貧血、体重減少を呈することがある。
また、イヌ鉤虫は第3期幼虫が経皮感染し、皮膚炎や皮膚爬行症を呈することがある。
これらの寄生虫卵は湿った環境であれば、厳しい寒暖の中においても長期間にわたり生存できることが知られている。ペットの糞便で環境を汚染させないために、飼養者に対して予防に関する知識の啓発が重要である。
引用:埼玉県内のイヌとネコにおける腸管寄生虫類の保有調査:2008年〜2016年
かつて、し尿を農作物の肥料として使っていた時代は人もヒトに固有の鉤虫であるズビニ鉤虫(Ancylostoma duodenale)やアメリカ鉤虫(Necator americanus)に感染して鉤虫症が蔓延していましたが、衛生環境が改善された今はまれな病気とされています。
しかし、犬鉤虫(Ancylostoma caninum)も人に感染するので侮ってはいけません。
土いじりをしているその土や、子供を遊ばせている土や砂が汚染されていれば鉤虫に感染してしまいますからね。感染の仕方は犬と同じです。素足で歩いていたりすればなおのことです。鉤虫は犬だけでなく人も注意しておくべき寄生虫なのです。
参考:犬猫の消化管内寄生蠕虫の生態と駆除法、 ズビニ鉤虫症の1例
蠕虫感染症 平成24年度 感染症リスクマネジメント作戦講座