自宅にいても感染する? 感染した犬に下痢、粘血便、脱水を起こす犬鞭虫
犬鞭虫(Trichuris vulpis)
犬鞭虫(べんちゅう)の虫体と虫卵の写真です。犬鞭虫は体の反対側がクルクルっとしていますが、どちらが頭の方(前半部)でどちらがおしりの方(後半部)だと思いますか?
細い方がおしりの方にも思えそうですが、細くて長くてクルッとした方が前半部です。
革で作られた人をしばいたり動物をピシャっと打つためのひも状の道具がありますよね。ムチのことですが、漢字で“鞭”と書きます。
鞭虫のこのクルクルっとしたところが鞭の先の細いところ、つまりムチを打たれる側に当たる部分で、虫体の後半部の太い方がムチの持ち手にあたる“柄”のような形をしているので鞭虫といわれているのです。
鞭虫(べんちゅう)は虫体の前半部が全長の3分の2(2/3)を占めているので、見た目そのままの鞭(むち)状の虫ですよね。
鞭虫の虫卵もとても特徴的です。
色は黄褐色もしくは暗褐色、グラタン皿、レモン、ラグビーボールのような形をしていて卵殻が厚い、虫卵の両端に栓をしたような構造をしています。
犬鞭虫は成虫の長さは4p〜7pくらいで、イヌ科動物の盲腸の粘膜に寄生します。
経口摂取された虫卵は消化管を通過したあと小腸で孵化しますが、そのまま大腸へ向かうことはせず数日間ほど小腸の粘膜に止まり成長します。
育った鞭虫は改めて小腸腔に出てきて、小腸を経たのち盲腸へ寄生します。
大腸は小腸の次に続く部分で、小腸側から盲腸、結腸、直腸、肛門へと続きますが、鞭虫はたまに結腸にも寄生することがあるのです。通り過ぎてしまうのでしょうかねえ。
小腸 → 大腸 : 盲腸 ⇒ 結腸(上行結腸 → 横行結腸 → 下行結腸 → S状結腸) ⇒ 直腸
で、鞭虫は盲腸の粘膜にかじりついて犬の血液を吸う寄生生活を始めるのですが、寄生している鞭虫の数が少ないと症状はほとんど見られません。とはいえ、犬が排便をしたあとに血液交じりの粘液が出てくることがあったり無かったりといった間歇(かんけつ)的な症状がみられます。
鞭虫の頭部(前半部)、先述したムチで例えるとムチの先の部分を腸管粘膜に食い込ませているため出血するのです。もちろんその粘膜部分はダメージを受けているので充血や浮腫、びらんが起こります。
鞭虫のが多い重度寄生の場合は貧血が起こります。多数の虫に吸血されるからですね。
さらには、大腸からの頑固で慢性的な下痢、粘液血液便、便が出ないのに便意を催す
“しぶり”が見られます。
排便するときって下腹部に力が入りますよね。
これを努責(どせき)というのですが、“しぶり”による努責の結果、直腸脱が生じることもあるのです。鞭虫の多数寄生による吸血で貧血が、鞭虫の大腸粘膜への食い込みによる粘膜の荒れと吸収阻害で脱水と栄養不良、栄養状態の悪化で被毛の状態が悪い、といった全身性の症状が現れてきます。
鞭虫は7ヶ月齢以上の犬に寄生が多く認められます(参考:犬猫の消化管内寄生蠕虫の生態と駆除法)。少数寄生なら症状が見られませんが、多数寄生だと上記のように症状が酷い場合は治療が必要になります。
鞭虫卵は厚みのある丈夫な卵殻をしているということは先に述べましたが、感染した犬から排泄された虫卵は孵化するのに適した温湿度になるまで数年間は生きていられるほど強いのです。ですので、いつ犬が鞭虫に感染するのか予測のしようがありません。
犬が鞭虫に感染してしまったら駆除薬の投与で症状を改善することは可能ですが、やはり常日頃から予防に努めておかないといけません。糞便を確実に処理する、できるだけ他の犬の糞便に触れさせないようにする、などして。
外に出たら犬は地面に四肢をつけて歩きます。もしかすると外に出た嬉しさでゴロゴロ転げまわるかもしれません。虫卵が体に付く可能性大ですよね。
人も外出先で靴や持ち物に虫卵を付けてくることがあります。
犬が自分の体や四肢を舐める、虫卵を付着させたまま自宅に戻って住環境を汚染し、汚染された何かを舐めたりかじったりして経口感染することもあるので油断大敵です。
それを考えると、一番確実なのは定期的な予防(駆虫)ではないでしょうか。
鞭虫を駆除する薬
外 用 | 内 用 | ||
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錠 剤 | 液 剤 | ペースト | |
アドボケート | インターセプター | プロコックス | パナクール オーラルペースト |
プロフェンダー | ウォレックス | − | − |
− | キウォフプラス | − | − |
− | コンフォティスプラス | − | − |
− | センチネルスペクトラム | − | − |
− | ドロンタール | − | − |
− | パナクール | − | − |
− | パノラミス | − | − |
− | ミルベマックス | − | − |