生まれて間もない子犬はどの子も回虫に感染しているの?!
犬回虫(Toxocara canis)
犬が排泄した後、うんちを片付けようとしたら糞の中にスパゲッティのように白くて太い10〜20pくらいの長いものを見つけてしまったり、子犬が嘔吐した時、吐物の中にニョロニョロと蠢く白くて細長い虫が入っていた、そんな経験はありませんか?
異物の正体と気味の悪さに思わず「うわっ!」と驚いてしまいますよね。
犬回虫
イヌ科動物の小腸に寄生
この虫は回虫です。
・ うんちの中にもやし状の虫がいる
・ 嘔吐物から生きた回虫が出てきた
・ ウンチをみたときグルグルした長い何かを見つけた
・ 子犬の糞から回虫が数匹見つかった
・ 健康なうんちにひもみたいのが混ざっていた
・ 拾った子犬の検便をしたら回虫がいた
・ 子犬が嘔吐した時に白いひも状(そうめん)のようなものが入ってた
きれいで清潔そうに見える子犬でも、必ずといっていいほど回虫がいると思っていた方がいいでしょう。それはなぜか? 回虫の感染ルートは鉤虫と同じく多様です。回虫卵が口から入った経口感染、母犬の乳汁を介した経乳感染、出産前の胎盤を介しての胎盤感染があります。
感染ルート
・虫卵
・待機宿主:げっ歯類ー感染を受けると幼虫が脳内に被嚢しやすいため,正常な運動ができなくなり,犬に捕食されやすくなる。
成犬 : 全身型移行 )小腸→肝臓→肺→心臓→全身の臓器・筋肉で被嚢
幼犬 : 気管型移行 )小腸→肝臓→肺→気管→小腸
犬が回虫に感染すると、腸管内で虫卵が孵化して小腸内で回虫が寄生生活を送り、犬のうんちと一緒に虫体や虫卵が出てくることをイメージしがちですが、その犬が成体であるか幼若・若齢であるかによって症状の出方や回虫の寄生の仕方が違ってくるのです。
犬回虫には年齢抵抗性があります。
6か月齢以下の幼犬に高確率で回虫の感染が認められていて、犬回虫が寄生している犬の 85.7%が1〜2か月齢の幼犬なのです。ある程度大きくなったメス犬が回虫に感染した場合、回虫卵は孵化してもその犬の体内で成長することはありません。
幼虫のまま臓器や筋肉内で大人しくしています。
しかし、そのメス犬が妊娠すると休眠状態にいた回虫は活発・活動的になり、胎盤やへその緒を通って子犬の体内へと移動するのです。母犬の体内にいた回虫すべてが子犬に移動するわけではなく、一部の回虫は活動的になることもなく休眠状態のまま居残って次の妊娠のときに胎児に感染するのです。
一度寄生されると、出産の度に回虫に感染した子犬を生むことになってしまうのですね。
「うちの子ちゃんと駆虫しているから回虫なんているはずがない!」と声が聞こえてきそうですが、駆虫薬は腸管内にいる回虫を駆除する薬です。犬のお腹の中に回虫がいれば駆除されて出てきますが、腸管外つまり他の組織にいる幼虫や虫卵には効かないのです。
犬回虫は成体の体内では成虫になることができません。生後 5ヶ月以内の仔犬であればその体内で幼虫から成虫に成長できるという不思議な特徴をもつため、成長した犬の体内では筋肉や臓器の中で膜を作って(被嚢)留まっているのです。面白い生態ですよね。
犬回虫の成虫寄生が幼犬に多く成犬に少ない理由がこれなのです。
犬が回虫(を始めとする寄生虫)に感染しないよう外へ出たときに気をつけていたとしても、自宅でも回虫に感染してしまう危険性があるのです。外出した飼い主さんが家に虫卵を持ち帰ってしまうのはもちろんですが、「えっ?そうなの?」と意外なことからも回虫に感染するのです。
何だか想像できますか?
それは犬の食餌です。鶏の肉やレバーを生の状態で犬に食べさせることで回虫に感染するのですが、意外でしたでしょうか? 「新鮮だから♪」と生レバーや生肉を与えると、それが回虫に感染した鶏のものであれば幼虫を摂取してしまうことになるのです。
「管理された養鶏場で飼われているのでは?」とお思いでしょうが、飼われている鶏すべてがオートメーション化された鶏舎で飼育されているのではありません。“放し飼い”がありますから。草やミミズを食べてのびのび育った健康鶏なんてあったとしましょう。
自然豊かな所で飼われているということは、もしかすると他の動物が近場でうろついていないともいえませんよね。そのうろついている動物が回虫に感染していたとすれば、糞やら死骸やらが落ちているかもしれません。それを鶏がツンツンしたりついばんだりすることで回虫に感染してしまうのです。
鶏の肉やレバーの生食で回虫に感染するのは犬だけではありません。人もです。
回虫は宿主特異性が強いので、それぞれの回虫が特定の動物に寄生しますが、人が犬回虫の卵(幼虫を有した幼虫包蔵卵)を口にしてしまって寄生が成立してしまったとしても、人は犬回虫にとっての本来の宿主ではないので、犬回虫が人の体内で成長することができないのです。
すると、犬回虫の幼虫は人の体内で居場所を探し求めて動き回る(迷走する)ことになります。幼虫が目に侵入した時は眼幼虫移行症が、主要な臓器に侵入した時は内臓幼虫移行症といった、犬回虫や猫回虫を原因とするトキソカラ症になってしまいます。
犬回虫(Toxocara canis)はある月齢以上の犬に寄生してもほとんどの場合は無症状(不顕性感染)です。回虫が寄生している犬の8割以上が生後 2か月齢未満の子犬ですから、抵抗力が弱い分、寄生している回虫の数が多いほど症状が酷くなります。
子犬が回虫に感染すると、食欲不振や発育不良、痩せ(削痩)、腹部の膨れ、粘膜蒼白、下痢、便秘、腹痛、嘔吐、虫体の吐出といった症状が見られますが、時には死亡してしまうことさえあります。
自然環境下だと犬回虫は胎盤感染によって新生子犬にほぼ100%感染します。生後3週齢以下の子犬のうんちを検便して虫卵が検出されなかったとしても、腸管内に寄生しているのは幼虫であって虫卵を出す成虫ではないと考え、糞便検査は複数回行ってください。
回虫が寄生することによって病気に対する抵抗性が低下してしまいます。他の病気を併発しやすく、それでいて病態を著しく悪化させるので犬回虫の寄生はやっかいです。犬回虫の駆虫はもちろんですが、寄生されないために予防も大事です。
虫卵の中に幼虫を形成した成熟回虫卵は環境条件や薬品類、低温に対して強い抵抗力を持つものの、高温や感染に対しては比較的抵抗力が弱く、また、糞便と共に排泄された回虫卵は成熟までにある期間を必要とするので、糞便の適切な処理と環境の乾燥を保つことで予防することができます。
猫回虫 (Toxocara cati)
犬回虫ほどではありませんが、猫回虫についても少し解説しますね。
猫回虫の感染は、@成熟虫卵の経口感染、A待機宿主の捕食による感染、B母乳感染によって起こります。犬回虫と違うのは、胎盤感染が無いということです。
猫回虫はネコ科動物の小腸に寄生するものの、イヌ科動物には寄生しないという宿主特異性があります。成猫が猫回虫に感染しても通常は無症状ですが、幼猫が回虫に大量に寄生されると致死的となってしまいます。
外出することの多い猫だと、外で野ネズミなどの小動物を捕まえて食べてしまうことは否めません。その捕まえた動物が回虫を保有していれば感染する可能性は大ですから、定期的な駆虫薬の投与が一番の予防ともいえますよね。
参考:犬猫の消化管内寄生蠕虫の生態と駆除法
ペットからうつる感染症 感染症診断・治療へのアプローチ 三菱化学メディエンス
犬の病気 一般社団法人 日本臨床獣医学フォーラム
パラサイトソリューション総合ガイドブック バイエル株式会社
回虫を駆除する薬
外 用 | 内 用 | ||
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錠 剤 | 液 剤 | ペースト | |
アドボケート | インターセプター | パピー&キトゥン・ワームシロップ | パナクール オーラルペースト |
ストロングホールド | ウォレックス | パラゾール | − |
ブロードライン | キウォフプラス | プロコックス | − |
プロフェンダー | コンフォティスプラス | − | − |
レボリューション | センチネルスペクトラム | − | − |
− | ドロンタール | − | − |
− | パナクール | − | − |
− | パノラミス | − | − |
− | ミルベマックス | − | − |