猫の耳の外傷の原因は猫同士の喧嘩による受傷が最多
原因
耳を始めとする体の各所に猫が傷を負う原因の多くがオス猫同士のケンカです。
猫の喧嘩って見たことありませんか? 激しいの一言ですよね。いつもはピンと立っている耳が後ろ側に反り返り、一定の距離間を保った睨み合いが続きます。逆立っている背中や尻尾の毛で猫の緊張感が伝わってきます。どちらかの猫が動くや否や、取っ組み合いのケンカが始まり、毛を飛び散らせながらくんずほぐれつの攻防が続きます。
喧嘩ですから猫は互いに加減をしません。必死になって相手を攻撃します。本気です。猫の爪や歯って尖っててとても鋭いですよね。鋭い先端が体の至る所に刺さったり、切り裂いたりします。猫同士の喧嘩で相手に怯むことなく立ち向かう子であれば顔や体の前面、逃げる子であれば体の後方、お尻や尻尾を負傷しやすくなります。
猫が喧嘩をする理由としては、相性の悪さ、縄張り(テリトリー)争い、発情期のメス猫の争奪、他の猫への嫉妬心、餌の奪い合いなどが挙げられます。猫の喧嘩傷は爪や犬歯による引っ掻き傷や噛み傷が大半で、皮膚が切り裂かれてぱっくり開いているものや、出血がなければ目立たない小さな穴になっているものがあります。
症状
皮膚にぱっくりと大きな穴が開いている、皮膚が裂けている、出血している、肉が見えているなど、一見して喧嘩でやられたとわかる怪我ならすぐさま対処できるのですが、傷が小さい場合は厄介です。
傷口が毛に覆われていたりすると見えないですからね。猫の元気がない、食欲が無い、食べない、何だか熱っぽい、パンパンに腫れ上がっている、なんか臭いといった猫の異変でやっと負傷に気づけるのではないでしょうか。
この“やっと気づいた”時点で猫が負傷してからある程度の日数が経っているので、皮下では細菌感染による化膿が進んでいます。この頃にはもう表に見える小さな傷口は塞がっています。怪我が治ったようにも見えますが安心してはいけません。猫の爪や口の中は雑菌だらけです。
相手に攻撃された猫は負傷させられるだけでなく、雑菌まで体の中に入れられてしまうのです。また、皮膚の表面に存在している細菌も一緒に入ってしまいます。怪我をした箇所がぷっくり腫れてきたり、異臭を放っているときは皮下に溜まった膿が原因で、患部に熱感をもたらすのはこのためなんです。
溜まりに溜まった膿が行き場を失い傷口を押し開け出てきているならいいのですが、そうでない場合があるのです。猫の皮膚ってルーズですよね。背中の皮膚をつまむと伸びてしなやかなのは、皮膚と筋肉の間の組織の結合が“疎”で緩くなっているからなんですよ。この部分(蜂窩織)の炎症で化膿すると、組織間の結合があらいため膿が横に広がっていってしまいます。
局所に膿が溜まったものを膿瘍(アブセス)といい、広範囲に膿が広がったものを蜂窩織炎(ほうかしきえん;フレグモーネ)と呼びます。ちなみに、黄色いニキビは皮膚の比較的浅いところにできる膿瘍なので膿疱といいます。最終的には膿ができたところに自然に穴が開き膿が体の外に出てきますが、この頃にはもう猫も体力を消耗し大人しくなっています。
膿が体外へ排出されているとはいえ殖えた細菌が全身に広がっているので敗血症を起こし、細菌による毒素によって高熱が出る、吐く、呼吸が荒い、血圧の低下といった中毒症状が見られるほか、細菌感染した諸臓器が障害を受け機能不全が起きてしまいます。重症化すると敗血症性ショックによって死んでしまいます。
治療
怪我を早期発見できた初期の頃の化膿が酷くない状態なら抗生物質の投与で済みますが、皮膚がざっくり裂けた痛々しい状態の深い傷なら傷の洗浄を行い排膿処置を施し縫合します。必要とあれば傷んだ裂傷部を切り取ることもします。また、傷の中に膿が溜まっている場合は、その部分の皮膚を切開して排膿し、傷の内側の洗浄と消毒を行います。
膿は炎症反応の産物ですが、膿の中には細菌がまだ存在しています。
残っているとまた化膿するのできれいに除かなければなりません。ですので、傷の程度にかかわらず、処置後は抗生物質の投与を行います。外出してきた猫や多頭飼いしている猫の様子がおかしい時は、体中くまなく見てあげてください。毛をかき分けつぶさに見ていくことで、小さな傷も見つけることができるはずです。
その際に猫は痛がるでしょう。普段は大人しく体を触らせているのに明らかに嫌がる場合は、どこかを傷めています。様子見していると皮下で化膿が進んで大きくなり、皮膚の壊死や欠損が起きて治療が大変になってくるだけでなく、傷も治りにくくなるので厄介なのです。
関連ページ
- 耳疥癬
- 猫が耳ダニに感染すると、完治させるまでに数か月以上かかります。耳ダニが感染した時に見られる黒くて量の多い耳垢は耳ダニの卵や死骸の塊ですから、耳垢の処理が上手くできていなかったり、あちこち落ちてしまっているなら、耳ダニが再寄生(再感染)してしまいます。猫の耳ダニがなかなか治らなくてしつこい場合は、耳垢が原因だと思ってください。猫の耳ダニは人間にもうつりますから耳ダニ予防と駆除は必須といえるでしょう。
- 耳血腫
- 猫が耳血腫(じけっしゅ)になると、片耳が膨れている、耳が腫れてブヨブヨ、耳の皮膚の下に水が溜まったようにボヨボヨしている、片方の耳が倒れている、耳を虫に刺されたかのようにぷにぷにしている、といった異常が見られます。皮下出血だからとそのままにしていると、耳介軟骨が変形して耳の形がいびつになってしまいます。見つけたら直ちに動物病院で治療してもらってくださいね。猫の耳血腫は外耳炎が原因であることが多いので、外耳炎に罹っている猫ちゃんは要注意です。
- 外耳炎
- 猫の外耳炎は外耳に生じた皮膚炎です。外耳炎になると、猫は耳を痒がって後ろ足でしきりに掻いたり、耳をどこかへ擦りつけたり、頭を振ったりします。見た目にも耳の状態は悪く、耳垢が溜まり汚いのがはっきりとわかります。猫が外耳炎になる理由は様々で、耳ダニやマラセチアの感染以外に耳掃除があります。なにも感染していないのに猫の外耳炎がなかなか治らない場合は、耳掃除のやり方に問題があるのかもしれません。耳の中をきれいにしているつもりが、耳を傷つけてしまっていることもありますからね、
- 中耳炎・内耳炎
- 猫がまっすぐ歩けない、猫の首がねじれて傾いている、眼球が左右に揺れているといった症状が見られたら、その子は内耳炎に罹っているかもしれません。猫の内耳炎の原因の一つが中耳炎ですが、中耳炎は外耳炎が原因でもあるので、外耳炎になっている猫が内耳炎になってしまうこともあります。内耳が炎症でダメージを受けるため、バランス感覚を司る三半規管と前庭の障害で、猫がふらつくといった変な歩き方をしたり、猫の眼の揺れを見ることがあります。
- 耳の腫瘍
- 猫の耳先にできた小さな傷。すぐに治るかと思っていたら、なかなか治らない。しかも何度も化膿とカサブタを繰り返す。そのような時は悪性腫瘍の扁平上皮癌を疑ってください。癌によって組織の壊死が起こっているため、猫の耳の先端部分の怪我が治りが遅い、腐ってきているような傷から出血と膿が出る、様子見をしていたら耳介がどんどん欠けていくといった病状が見られます。市販の薬を塗っても治らないので動物病院で治療を受けてください。耳介の切除手術が行われます。